近世在方市の展開と元禄期商人
―羽州村山地方の場合―

横山昭男著

四 むすび

先に元禄・宝永年間に展開した在方市の形態と性格を考え、後半では、寛文年間以後に成長し、元禄・宝永年間に急速に発展する元禄期商人―在町商人とその背景についてみた。元禄期商人の活動の基盤は、全国的市場の展開の中で、まさに遠隔地間取引を背景に、一方この時代に展開した郡内の在方市場を条件としていたとみることができる。

村山地方の在方市は広範な展開を示した。その理由は本文でのべたのでくりかえさないが、しかしその在方市は、城下町の市場と競合し、対立する関係で発達したものではなく、地方的市揚が、幕藩制的な全国市場の一環に組み込まれながら、城下町市場を補完する形で展開しているのである。村山地方における商品流通の発展と統制は、その所領構造の在り方と、全国市場との接触の仕方に規定され、いわゆる藩城市場としては弱体化していた。その中で商品生産と流通の一定の発展がみられたが、商品流通の一大動脈としての最上川舟運にみられるように、そこでは幕藩制的秩序をもとにした、流域市揚ともいうべき形態が展開していたのである。

市場統制の一定の矛盾は、享保年間以降に次第に表面化した。それは在々における「小店」の発生や「出買い」の発達、あるいは特産物―紅花・楮などの、町方市の衰微にあらわれている。一方これは在町の定期市の衰退にも照応していた。このことは元禄期商人の没落の要因となり、中期以後の新興商人の台頭の条件であったともいえよう。